日銀理論
(1)
日本経済は11年度後半より緩やかな回復経路へ=白川日銀総裁
http://jp.reuters.com/article/vcJPboj/idJPJAPAN-21465820110601
[東京 1日 ロイター]
日銀の白川方明総裁は1日、日銀金融研究所主催の国際コンファランスであいさつし、東日本大震災によるサプライチェーン(供給体制)の寸断、電力不足など供給面での制約要因は「企業努力により当初に予想されたより早く緩和されつつある」との見方を示した。
…また、かつてシカゴ大で講義を受けたミルトン・フリードマン教授による「インフレはいつ、いかなる場合も、貨幣的現象である」との主張に言及。貨幣量の変化が長期的に物価上昇率に影響を与えるのであれば、デフレも貨幣的現象であり、中央銀行が巨額の資金供給で物価水準を引き上げることが可能、とする一方、「それは近年の日米での経験と整合しない」と指摘。デフレは貨幣的現象であるよりも、高齢化や労働人口の減少など経済の基礎的条件の構造的要因に起因するとの自説を示し、「マネタリーベースの大幅な拡大は、相応のマネーストック拡充や物価上昇をもたらさなかった」と結論づけた。
日経H22.12.11
日銀総裁写真

(2)
http://www.asyura2.com/11/hasan71/msg/882.html
白川総裁、国家破産を示唆する
慎重な発言の日銀・白川総裁が、国家破産を匂わせる発言をしている。
以下は、本日のロイターからの抜粋である。
◆日銀の白川方明総裁は28日、都内で開かれた日本金融学会で講演し、財政悪化に警鐘を鳴らすと「オオカミ少年」のように受け取られるが、政府の支払い能力に対する信認は突如低下し長期金利が急騰する可能性がある、と強調した。
…◆また、「財政赤字の拡大や日銀の独立性が尊重されていないと感じられる出来事が起こると、最終的に激しいインフレが生じるだろうと考える傾向が生まれる」、「はっきりしていることは、予想は非連続的に変化するということ」と指摘。「欧州周辺国のソブリン・リスク問題にみられるように、財政の維持可能性に対する信認が低下すると、財政と金融システム、実体経済の三者の間で負の相乗作用が生じ、経済活動にも悪影響が及ぶ」と述べた。
◆ 日銀が国債の買い入れを行う際、銀行券の発行残高を上限とする、いわゆる日銀券ルールについて、「時として、そうしたルールを設けることに対する批判が聞かれるが、仮に、これだけ多額の国債を買い入れている中央銀行が、その買い入れに当たっての基本原則も明らかにせずに行動すると、不確実性が増大し、リスクプレミアムが発生することから、その分長期国債金利が上昇する」と説明。 例えば「ギリシャやアイルランドの中央銀行が突然国債買いオペを大規模にはじめると状況は更に悪化する」と述べた。
「国債の日銀引き受けはできない、デフレは金融政策ではなく、構造改革(実態経済)で克服すべし」という、考え方を吐露しています。彼はなんと 「フリードマン」に教わっていたのですね。
デフレは、金融政策では解決しないのでしょうか?
<経済学の原理>
…かつてシカゴ大で講義を受けたミルトン・フリードマン教授による「インフレはいつ、いかなる場合も、貨幣的現象である」との主張に言及。貨幣量の変化が長期的に物価上昇率に影響を与えるのであれば、デフレも貨幣的現象であり、中央銀行が巨額の資金供給で物価水準を引き上げることが可能、とする一方、「それは近年の日米での経験と整合しない」と指摘。デフレは貨幣的現象であるよりも、高齢化や労働人口の減少など経済の基礎的条件の構造的要因に起因するとの自説を示し…
マンキューの「経済学の10大原理」の1つです。
『マンキュー経済学Ⅰミクロ編』 東洋経済新報社 2004 P18
第9原理:政府が紙幣を印刷しすぎると、物価が上昇する
…インフレは何によって引き起こされるのだろうか。大幅で持続的なインフレについては、そのほとんどが同じ原因によって発生することが明らかになっている。それは貨幣供給量の増大である。政府がその国の貨幣供給量を大幅に増やすと、貨幣の価値は下落する。1920年代初期のドイツにおいて、物価が1か月ごとに3倍になっていたころ、貨幣供給量も毎月3倍に増えていた。それほど劇的ではないにせよ、アメリカ経済の歴史も同様な結論を示している。1970年代の高インフレは貨幣供給量の急激な増大につれて起こっており、1990年代の低インフレは貨幣供給量のゆるやかな増大に伴っているのである。
「インフレ=貨幣供給量増大によるもの」は共通理解(原理)ですよね。インフレはそうなのですが、「デフレ=貨幣供給量低下によるもの」ではないのでしょうか?
経済学では、「インフレは金融政策によるもの、デフレは実体経済によるもの」という理論があるのでしょうか? ものすごく高等な理論の世界では、原理になっているのでしょうか?
日銀審議委員の1人、宮尾龍蔵氏は、かつて(2002年ごろ)、「デフレ=構造的要因」として、金融緩和では解決できないことを主張していました。
http://www.rieb.kobe-u.ac.jp/academic/newsletter/column/pdf/column002.pdf#search='デフレ 貨幣'
ですが、審議委員に就任した際のインタビューでは、「当時はそうだったが今後は違う」と、やんわりと否定しています。
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2010&d=0407&f=business_0407_093.shtml
「私がこれまでの色々な著作あるいは論文等で申し上げてきたことは、1990年代末から2000年代初頭にかけての、日本が本当に苦しく、いわゆるデフレスパイラルと言われたような、あるいは資産デフレが非常に深刻であったり、不良債権問題の解決の出口がみえない、そういった時の評価です。その当時は、金融政策で何かするというよりも、問題の根源は例えば不良債権問題であったり、様々な構造調整が重要であるというように認識していました。その当時の経済状況のもとでは、そうした評価をしていたということには変わりありません。
ただし、これからまた同じかというと、その前提が、もしかして違うかもしれません。具体的に申し上げると、例えば金融システムの問題に関しては、欧米先進各国は現在、かつての日本のように非常に傷んでいるようですが、日本は、相対的にはそれほど問題が深刻ではないと思います。今後は政策効果について、データや情報の収集等を通じて見極めていきたいと思っています」
どうして審議委員に採用されたか?理由は明らかです。
世界の、日本の経済学者は、どのような立場をとっているのでしょうか。
http://www.asyura2.com/0510/hasan43/msg/152.html
…リフレ派を「日本経済の長期低迷からの脱出に関して、決定的に重要なのは金融政策であるとする立場」と定義しておくことにする。
まずは、学界である。学界といってもいろいろなレベルがあるので、最初に「世界の学界」を見てみよう。…端的に言って、数多くのノーベル賞受賞者を含む第一線のマクロ経済学者の中で、上の意味でのリフレ派に属していないのは、思いつくところでごく一人とか二人にすぎない。逆にいえば、それ以外のすべてはリフレ派である。
上記『エコノミスト・ミシュラン』では、そうした海外リフレ派経済学者の代表として、ポール・クルーグマン、ベン・バーナンキ、ジョセフ・スティグリッツ、ケネス・ロゴフ、アラン・ブラインダー、ラルス・スヴェンソン、バリー・アイケングリーンらに言及している。しかしながら、これらは氷山の一角にすぎない。特筆すべきは、故ジェームズ・トービンとミルトン・フリードマンあるいはロバート・ルーカスといった、現代マクロ経済学の各潮流を代表する長年の論敵同士さえもが、この局面では「リフレ派」に含まれてしまうという事実である。その意味では、リフレ派の立場は、世界の学界レベルではすでに十分すぎるほどの合意を得られたものなのであって、完全に「決着済み」なのである。
その海外の専門家にとって、日本の金融政策論議がいかに奇々怪々なものかは、現在はアメリカFRBの理事を務めるベン・バーナンキが、日銀の金融政策決定会合での議論(毎回英文でも公表されている)を評して、「中原伸之氏(前日銀審議委員)の発言を除いてすべてジャンク」と述べたことからも窺える。…このレベルにくると、反リフレ派は、具体的な反論もできずに、「他人の議論の援用ではなく自分の頭で考えるべきだ」とか、「日本の風土にあった経済学でないとだめだ」といった怨嗟の抗弁をわずかに試みるのみで、はたから見ても惨めである。
しかしながら、学界といっても、国内に眼を移すと、様相は若干異なってくる。アカデミックなマクロ経済学者の中にも、反リフレ派の大物や中堅を何人かは見い出すことができる。
とはいえ、ここでもまだ、状況はまったく絶望的ではない。『エコノミスト・ミシュラン』の「エコノミスト主張別マップ」を見れば明らかなように、リフレ派の中には、岩田規久男、原田泰、深尾光洋、伊藤隆敏、伊藤元重、星岳雄、浜田宏一、竹森俊平、岩井克人、清滝信宏、新保生二、宮尾尊弘といった、海外にもよく名を知られた、日本の代表的マクロ経済学者、エコノミストが網羅されている。この顔ぶれを見れば、リフレ派には、日本を代表するマクロ経済学者の相当部分が含まれているといっても、決して言い過ぎにはならないであろう。
しかし、専門家の世界をもう少し拡げて、『エコノミスト・ミシュラン』の主な論評対象である経済論壇までをも含めると、勢力分布は大幅に変わってくる。そこでも まだ、上記のようなリフレ派の経済学者およびエコノミストの発言は、きわめて活発 である。しかし、野口悠紀雄、榊原英資、木村剛、小林慶一郎、金子勝、斎藤精一 郎、池尾和人といった各氏らに代表される反リフレ派あるいは構造改革派陣営と比較 すれば、その露出の度合いは著しく狭まる。
足し算でいうと、「リフレ派>反リフレ派」となり、リフレ派は正しいのです。と、量で真偽判定できないのですが・・・。
世界的なスタンダードはリフレのようです。
<実証・批判>
…かつてシカゴ大で講義を受けたミルトン・フリードマン教授による「インフレはいつ、いかなる場合も、貨幣的現象である」との主張に言及。貨幣量の変化が長期的に物価上昇率に影響を与えるのであれば、デフレも貨幣的現象であり、中央銀行が巨額の資金供給で物価水準を引き上げることが可能、とする一方、「それは近年の日米での経験と整合しない」と指摘。デフレは貨幣的現象であるよりも、高齢化や労働人口の減少など経済の基礎的条件の構造的要因に起因するとの自説を示し…
日銀白川総裁は、2002年の論文で、貨幣供給が物価水準に影響を与えなかったことを述べています。
マネタリー・ベースの拡大に対する、典型的な批判は、 「マネタリーベースを拡大しても、マネーストックは拡大しなかったので、効果がない」というものです。日銀をはじめ、色々なところで述べられています。
http://agora-web.jp/archives/1030418.html
日銀がお金を刷れば問題は解決するのか? - 藤沢数希 グラフも
一部の経済学者は、日銀が大量にお金を刷れば日本経済はよくなると唱えている。いわゆるリフレーション理論である。そして、彼らの矛先は常に日銀批判に向く。日本経済がデフレに苦しみ、過去20年間、世界の経済成長に取り残された主因は日銀が過度に金融を引き締めたためだというのだ。よって、日銀がもっと大量にお金を刷れば、デフレが解決し、日本経済は再び成長軌道に乗ることになる。本当だろうか?
まず、マネタリー・ベースと、マネーサプライの関係です。両者を1対1と考えることはできません。単純にマネタリー・ベースが増えれば、マネーサプライ(貨幣供給量)も増え、物価が上がるというのを、単純な貨幣数量説と言います。
ですが、このような説を、現在でも「単純」に信じている人はいませんし、実証的にも成立しません。
日経H22.9.9
『マネーストック2.1%増』
日銀が発表した8月の注)マネーストック…M3の平均残高は、前年同月比2.1%増の1079兆4000億円となった。…伸び率は…13か月連続で2%台を記録した。
注)
マネタリーベースは、流通現金+日銀当座預金。日銀は、この合計額を直接コントロールでき、マネーストックに影響を及ぼす。
マネーストックM3は、一般法人、個人、公共団体(除く国/金融機関)が保有する通貨量。「信用創造(準備預金以外の貸し出し)」によって、マネタリーベースの何倍もの通貨量が創造される。
2009年10月→2010年8月
マネタリーベース 2010年8月 98兆3,995億円
マネーストック 1,079.4兆円 前年同月比2.1%増

まあ、図のように、増えることは増えるのですが、単純に1対1で増えるとか、マネタリーベース増→マネーストック増という、因果関係が完全にあるわけではありません。もちろん、「増える(減ることはない)」のは事実なので、日銀はマネタリーベースをコントロールするのです。

ですが、「マネタリーベース増→マネーストック増→デフレ脱却になっていないじゃないか」と見ることもできます。「だから、金融政策で、マネタリーベースを増やしても、効果はない=金融政策無効論」です。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51669057.html
2011年01月22日 15:59 池田信夫 貨幣数量説について*

注)マネタリー・ベースを増やしても、銀行が貸し出しを増やさないかぎり、マネー・サプライは増えないという説もあります。日銀が供給しても、当座預金に「ブタ積み」になり、市中に出回らないとするものです。
ですが、貸し出しが増えなくても、銀行が、「社債」や「株」や、企業や個人の持つ「債券(国債など)」を購入しても、その分、普通預金・当座預金が増えることになり、「マネーサプライ」は増えるのです。
<なぜ、金融緩和なのか>
このように、単純な貨幣数量説(30年以上前に終わった話です)を支持して、リフレ派は金融緩和を訴えているわけではありません。
では、なぜ、マネタリー・ベースの拡大を、リフレ派は唱えるのでしょうか。それは、目標が、「将来にかけての貨幣供給の予想」にあるからです。つまり、「予想インフレ率」に影響を及ぼすと考えているからです。
マネタリー・ベースが増加し続ける(日銀が金融緩和をし続ける)と予測されれば、将来貨幣供給は増えると予想され、インフレを予測することになります。
フィッシャー方程式
実質金利=名目金利-(予想)インフレ率
0% =10%-10%
岩田規久男 『デフレと超円高』講談社現代新書 p139

このように、日銀の量的緩和政策の維持(米国も同様)は、予想インフレ率を引き上げ、逆に解除は引き下げたのです。
岩田 p213・144
多くの人が誤解しているが、マネタリー・ベースの持続的な拡大によるデフレ脱却は、中央銀行がばら撒いた貨幣を民間がモノやサービスに使うことから始まるのではなく、自分が持っている貨幣を…使って株式を買ったり、外貨預金をしたり…することから始まるのである。
量的緩和は…「モノの購入に使われる結果、物価を引き上げる」のではなく、為替相場や株価に影響を与えることから、その効果を発揮し始めるのである。
金融緩和継続
↓
予想インフレ率に影響
↓ ↓
①為替相場 ②株式市場
↓ ↓
円安・輸出増 資産効果
まさに、アメリカのQE2は、この効果を狙ったものです。
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-category-104.html
デフレ脱却と言う結果 量的緩和の効果 アメリカ 2011-03-08 記事参照
http://abc60w.blog16.fc2.com/blog-category-109.html
量的緩和の効果 アメリカ2011-03-08記事参照
そのために、恐ろしいほどの金融緩和をしています。
読売『米6000億ドル緩和策功罪』H23.6.19
米連邦準備制度理事会(FRB)は2010年11月に導入した6000億ドル(約48兆円)の国債を買い入れる「量的緩和策の第2弾(QE2)」…。
「緩和策は予想以上の成功だった」。バーナンキFRB議長は…4月27日の記者会見でlこう自賛した。
政策は主に二つの効果を狙ったものだ。…長期金利は下がり…幅広い金利の低下が期待できる。
…さらに資金が株式や社債などに振り向けられることで株高が消費を活性化させる効果も見込んだ。
…NYSEユーロネクストに上場する株式の時価総額(4月末、米国分のみ)は…10年8月末から23.5%増えた。小売売上高は…10ヶ月連続でプラスで、個人消費の持ち直しが鮮明だ。…デフレ懸念は払拭された。
岩田P153


各国も同様です。その結果、各国通貨に対して「円だけが『超円高』」になっています。
各国 マネタリー・ベース 推移
出典: http://blogs.yahoo.co.jp/suzukieisaku1/17114313.html のグラフを改

岩田P162

岩田 P167
世界広しといえども、中央銀行の中で、金融政策でデフレを止められないと主張するのは、日銀だけである。
読売H23.6.25 『失われた10年 今は日銀に同情』

…議長は「中央銀行に断固とした決意があれば、デフレに対し、多少なりのことは常にできる」とも強調した。…日銀とは一味違うとも言いたげに聞こえた 。
白川日銀総裁
中央銀行が巨額の資金供給で物価水準を引き上げることが可能、とする一方、それは近年の日米での経験と整合しない
なんで、事実に目を背けてまで(換言すれば、嘘を言ってまで )、金融緩和を避けるのでしょうか?
theme : マクロ経済学 ミクロ経済学
genre : 政治・経済