医療にカネを使っても、平均寿命は延びない?
タイラー・コーエン『大停滞』 NTT出版 2011

日本の様子を、「低成長時代の先輩」というような扱いで述べています。低成長を「大停滞」と邦題では表現しています。
確かに、この本で語られるように、日本映画「オールウエイズ3丁目の夕日」の昭和30年代以降、つまり、昭和40年代以降に生まれた世代には、すでに、自動車もテレビも、冷蔵庫もありました。それぞれ、今日では、性能は上がりましたが、何か私たちの生活が劇的に変化したでしょうか?高性能・省エネ冷蔵庫で。
これが、今の60代以上の世代の人にとっては、電気も、自動車も、TVも、洗濯機も、炊飯器も、掃除機も、冷蔵庫も、クーラーも、何もかもが、劇的に生活を変えたはずです。アポロは69年に月に行きました。この人たちは、「不便→便利」を体感した世代です。
つまり、イノベーション(革新)の度合いが、低くなっているということなんですね。恩恵・果実を受けていないと。
しかも、インターネット(IT)は、「情報の非対称性」を、なかったときに比べて圧倒的に向上させましたが、そんなに雇用を生むものではありません。
注)情報の非対称性は、生産者は売るモノ・サービスについて、情報を完璧に持っているが、消費者は持っていないというもの。極端に言えば、100対ゼロもありうる。
食べログなんかの口コミは、この差を縮めている。インターネットには、消費者側の情報が掲示され、選択の際の参考になっている。消費者が、何か調べたければ、結構な情報があふれている時代。
<医療>
アメリカは世界のどの国よりも GDP に占める医療関連支出の割合が高い。というより飛び抜けて高い。ところがアメリカ人の健康状態がほかの豊かな国々に比べて突出して良好かというとそうとは言えない。
http://aruconsultant.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-5abc.html

…例えば、イギリスでは、医療に費やされている金額はアメリカより少ないが、平均余命や国民の健康満足度などを基準に判断すると、医療が生み出している価値はアメリカより大きい。…一般的に医療費支出が多ければ国民の健康が高まるという単純な関係が成り立たないことがわかる。
http://aruconsultant.cocolog-nifty.com/blog/2010/02/post-5abc.html


それなのに医療部門は、アメリカの主要産業の中でもとりわけ急速に成長している。…ギリシャはアメリカより平均余命が高いが、いずれも1人当たりの医療費支出は、アメリカよりはるかに少ない。
キプロスの病院が、ことのほか優秀だからなのか?ギリシャがテクノロジーを極めて効率的に活用しているからなのか?
…新しいテクノロジーを利用できなくても、こと健康に関して言えば、これらの国の大半の人は問題なく生きている。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1900.html

アメリカの医療システムは、様々な面でこれらの国よりすぐれている。病院は清潔だし、専門的な医療は質量ともに充実している。医薬品も豊富にあるし、患者が感じられる希望も大きい。最先端の治療を受けられる確率も高い。しかしあいにく、アメリカ人はこうした国の国民より長生きできない。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1600.html

アメリカの…医療経済学者であるデービッド・カトラー…1995年から2005年のアメリカ経済の生産性を調べた。この期間経済全体の生産性は年平均2.4%のペースで伸びていた。では医療部門はどうだったのか。…若干のマイナス成長だった。
…問題は「どうして、暮らしが良くならないのか」と、大半の国民が不満を抱くようになることだ。かつての電気や自動車と違って、今最も急速に成長している産業である医療部門が(少なくとも現段階では)私たちの生活を一変させていない以上、そういう不満がわいてきても不思議ではない。
…近年、付加給付の金額が増えているのはかなりの部分、医療保険のコストが上昇している結果だ。付加給付が増えているのは、医療費が増えているせいなのである。つまり「付加給付の増加が実質的にどの程度の価値を生み出しているのか」という問いは、「医療費支出を増やすのと引き換えに、私たちが何を得ているのか」という問いと同じことだ。結局、問題はそもそも医療がどの程度の価値を生んでいるかなのである。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1640.html

医療費支出が伸びても、その費用対効果は、どうなんでしょう?
theme : マクロ経済学 ミクロ経済学
genre : 政治・経済